そのジェンガを崩さないように
ジェンガをほぐしてゆく。
崩さないようにジェンガをほぐしてゆく。
どこを抜けばジェンガは倒れずに立っていられるのか。ひとつの腐食したジェンガのかけら。かけら。ピース。それを抜いても、そのジェンガは立っていられますか。
どれだけ抜いてもジェンガはジェンガである、いや、そういうわけではない。どこかで倒れるときがくる。崩れるときがある。信じられない程簡単に。崩れたジェンガはもはやジェンガではない。かけらたちの集まり。ただの塊。そうしたらそのゲームは失敗。終わり。
ひとつかけらを外したところで、倒れるときは倒れるもので。崩れるときは崩れるもので。けれどもただ立ってさえいられれば、どこまで抜いてしまってもかまわない。かまわないの。そういうルールでいまは進んでいる。ジェンガはそういうものというルールでわたしたちはかけらを外していく。大胆に、大胆に。倒れることさえしなければ、それはジェンガだと言える。そういうふうに、外していく、抜いていく、限りなく倒れないぎりぎりのところを攻める。それが美徳であると。この世界での美徳であると。そういうふうにできているみたいだ。この世界では。
ひとつの腐食したジェンガのかけら。
それを抜くとその腐食したジェンガのひとつ上のジェンガに腐食が伝染している。
それを抜いてもそのジェンガは立っていられますか。
抜けるのならばどこまでも。腐食が伝染しないように広がらないように。綺麗なかけらでさえも。立っていることに関係のないかけらならば抜いてもかまわない。腐食を防げ、防げ、ふせぐんだ。広がる、ひろがる、くずれかけるジェンガ。ただの塊にならないように。わたしたちは抜く、抜く、ぬいてゆく。
そのジェンガは世界を動かしている核だ。
そのジェンガは、脳そのものだ。
『麻痺さえ出なければ』
『失語さえ出なければ』
そういってまた腐食したかけらを外していく。ゆけるところまで。たった1本の柱で支えられているおおきな神殿。揺れる揺れるゆれる。けれどまだ立っている。まだ立っていられる。そうであるならば。そうあなたが叫ぶのならば。限界まで外して差し上げましょうそのジェンガ。
(脳腫瘍に立ち向かうということ)