世界を食べたキミは無敵。

小さい頃おいしゃさんごっこをして遊んでいて、いつか大人になってもずっと続けている、そんな人生

女の人生いろいろ

『女の人生っていろいろよね』とπ先輩は唐突に言った。

 

 

 

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先週の日曜日、私は先輩に誘われてランチに来ていた。先輩が当日予約してくれたそのお店は、こじんまりとした店内に、キッチンを囲むようにぐるりとカウンター席がいくつか配置されている、ちょっと変わったデザインのお店だった。カウンターの上には、いろんな国のワインボトルや、コルクや、よくわからない象の置物などが置いてあった。そういう雰囲気のお店だった。お店の入り口のドアには『本日のランチは予約のお客様のみとなっています』と張り紙がされていて、先輩は予約が取れてラッキー、と嬉しそうだった。

本日のランチ、を2人とも頼んだ。先輩は私の2歳年上だ。28歳なのだけどかなりイケイケで、おしゃれな人しかかぶれない青のニット帽をかぶって、黒縁のだてメガネをかけ、ボタニカル柄のスカートに白のスニーカーを履いていた。夏なのにニット帽をかぶっている人を見かけると季節錯誤で変なの、といつも思っていたが、先輩はとっても似合っていた。そして相変わらずの巨乳で、なので、π先輩と書くことにする。

私とπ先輩はかれこれ1年ぶりくらいに会ったので、席に着くなり、いや席に着く前から、最近どうなのか元気でやっているのかベラベラとお互い近況報告をしあった。少しするとお店の人が『本日のオードブルです』といって白いプレートを運んできてくれた。そのプレートの上にはオードブルの料理が10つくらい、ほんのひとくちで食べられるくらいの量のものが10つくらい並べられていて、お店の人はナスのなんとかホタテのソースのなんとか、途中でカンペのメモをすみませんと言って見ながら長々と説明してくれたのだけど、私たちはそれをじっと黙って聞いていたのだけれども、その説明はたぶん2人ともまったく耳に入っていなくて、何を話そうか何を聞こうかあれやこれや頭の中で話題を考えていたと思う。そのくらい久しぶりの再会にテンションが上がっていた。こんな時、おしゃれなお店を選んでしまうのって、もったいないと思ってしまう。おしゃべりに夢中で、あまり料理を堪能できないからだ。その証拠に、私はいまその時食べた料理の味を思い出すことができない。美味しかったことは確かなのだけれども。

先輩は、オードブルのひとつを食べながら、最近まわりがぞくぞくと結婚していくのよね、と言った。結婚もしていくし、子供も産まれてくのよね。なんか、すごく遠い存在になっていっちゃった気持ちなのよね、と言った。π先輩には4・5年付き合っている彼氏がいる。けれどまだ結婚はしていない。なんでも言うことを聞いてくれるいい彼氏よ、と以前本人から聞いたことがあった。私は、そういう先輩は最近どうなんですか、とさりげなく聞いたら、『この前プロポーズされたんだけど断っちゃって』との返答が返ってきた。私は、しまった地雷を踏んだと思い、慌てて話題をそれとなく変えたのだけれども、今思えば、もっと深く突っ込んでおくべきだった。プロポーズを断るというエピソードは、よく考えたらそれほど地雷な話題ではない(と思う)。プロポーズを断られた、はおそらく地雷だが。それっていったいどんな状況だったのだろう。けれど『彼氏とはうまくやっているよ』と言っていたので、経緯はよくわからないが、プロポーズを断った後もうまくやっているのだろう。

 

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π先輩は『女の人生っていろいろよね』と、唐突に言った。

 

かなり好き放題やってきた(やってきている)π先輩に、衝撃をあたえたらしいその話題は、先輩と同じ職場の、私と同い年の女の子の話だった。その女の子はモデルのような美人で、最近ホテル経営者の御曹司だかと結婚して、有給をフルに使って全国に挨拶まわりをしに行っているらしい。旦那さんには『働かなくていい、専業主婦になってくれ』と言われているそうだ。π先輩は、うらやましいなあ、といったニュアンスの口ぶりで話してくれた。私は『確かにすごいなあと思いますけど、自分がなりたいとは思いませんね。』と率直な気持ちを言った。

たぶん、私にとって仕事は大きなウエイトを占めていて、これからしばらく、少なくとも20年くらいは、どんなことがあっても仕事を完全に捨てることはできない。好きな人に、結婚したら仕事をやめてくれ、と言われたとしたら、どちらを切り捨てるかすぐには返答できない。結構、自分のアイデンティティというか、プライドというか、そういったものが仕事に依存していて、それがなくなってしまったら私を構成するものが半分以上なくなってしまうような気がする。これじゃあワーカホリックだ、と分かっていても、もうどうしようもない。今更新しい何かに手をだす余裕もない。

その話が羨ましいとしたら、働かなくていいことが羨ましいのではなく、簡単に仕事を切り捨てられることが羨ましい。私には無理だ。仕事を切り捨てることはできない。

 

私の周りもぞくぞくと結婚していて、最近、『結婚』と『仕事』についてよく考えさせられてしまう。『結婚は勢いとタイミングよ』と既婚の先輩からはよく聞かされていたけれど、実際に結婚した周りをみてみると、本当にそうなんだな、と納得する。結婚って、もっと慎重で、重いものだと思っていた。けれど、案外あっさり『結婚します』なんて言われて、たぶん本人たちは慎重で、重いものとして考えているのだと思うけれど、周りは『ああ、結婚って勢いとタイミングね』と感じる、そういうものなのかなあ、と思う。結婚だけじゃなくって、結構いろんなこと、自分が思うほど周りは気にしてなくって、そういうものなのかなあ、と思う。

 

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π先輩は、『あかめちゃん、見ててよ、私の生き様を』と、かっこいい台詞を残し、スペインのトマト祭りへと飛び立っていった。先輩の手には、赤と青のハッピが握られていた。ほんとう、女の人生っていろいろだなあと思う。