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世界を食べたキミは無敵。

小さい頃おいしゃさんごっこをして遊んでいて、いつか大人になってもずっと続けている、そんな人生

動物好きの女

空想のこと

のど子ちゃん(26歳・独身)は僕が働いている会社に2年前に派遣社員として来た女の子だった。


のど子ちゃんはごく普通の見た目の女の子だった。黒髪で少し肩にかかるくらいの長さで大きな縁取りの焦げ茶色の眼鏡をかけていた。うちの会社は夏でもクーラーをガンガンにかけるため部屋は一年中比較的寒く保たれており、のど子ちゃんはいつも灰色の袖がややのびたカーディガンを萌え袖(サラちゃん・24歳・独身が教えてくれた)にして着ていた。

のど子ちゃんの習性(この場合習性という言葉が正しいのかは分からないが取り敢えず習性としておく)に気がついたのは、のど子ちゃんが働き始めてから2ヶ月位たった頃の事だった。


ある日の事たまたま職場でのど子ちゃんを含めた数人で喋っていた時に、ヒョウの話題が出たのだ。ヒョウはあの動物のヒョウだ。なぜヒョウの話になったのかは覚えていないが、とにかくヒョウの話で盛り上がったのを覚えている。

その次の日のど子ちゃんはヒョウ柄の服を着てきた。うちの職場には制服がなくみんな自由な服を着てくるため、のど子ちゃんのヒョウ柄の服はそれ程目立ってはいなかった。ただ"のど子ちゃん今日はヒョウ柄の服なんだね"というだけで、昨日出たヒョウの話題と関連付ける人はいなかった。僕を除いて。


それから数日経ったある日はシマウマの話になった。これは『蹄の音を聞いてシマウマを探すな』という諺をシンヤ(31歳・独身)が言い出したからだった。そしてやはり次の日にはのど子ちゃんは黒と白のストライプのシャツを着てきた。僕の疑念は確信に変わった。

これまではヒョウ柄、ストライプ柄と比較的ハードルの低い服だったので、僕は少しずつハードルを上げていく事にした。


ある日はフラミンゴの話題を出してみた。みんなで話している時にフラミンゴの話題をごく自然に持ち出すのはかなり難しいので、前日にはイメージトレーニングなどをしていた。わざと片脚で立って話をして『なんで片脚で立っているの?』と聞かれたら『いまこのフラミンゴ立ちダイエットっていうダイエット法が流行ってるらしいよ』とデタラメなダイエット法を編み出したりしてみた。そしてやはり次の日にはのど子ちゃんは鮮やかなサーモンピンクのワンピースを着てくるのであった。またある日はてんとう虫の話題を出してみた。これはのど子ちゃんの習性が昆虫でも通用するのかを試してみようという意図もあった。この話題を出すのは簡単で、近いうちにあった同期のミチヨ(32歳・当時独身)の結婚式での出し物はてんとう虫のサンバにしようかと言えばよかった。言ってからてんとう虫の柄の服なんて売っているのかと心配になったが、そこはさすがのど子ちゃんで次の日には赤い生地に黒のドット柄の服を着てきた。僕は思わずのど子ちゃんに『それどこで買ったの?』と聞いたら『ツモリチサト。』と言っていた。


いろいろな難題を出してみたけれど、のど子ちゃんは難なくそれらをクリアーしていった。そして難題が無い時には灰色のカーディガンの萌え袖だった。


ある日僕は『カメレオン』の話題を出したらどうなるのだろうと思った。僕は小学生の男の子が好きな女の子にイタズラするようなそんな軽い気持ちだった。その日もいつもの様に何気なくカメレオンの話題を出してみた。別にその場でのど子ちゃんに変わった様子は見られなかった。


しかし次の日、のど子ちゃんは職場に現れなかった。僕はしまったと思った。言ってはいけない事を言ってしまったのだ。カメレオンはのど子ちゃんにとってのジョーカーだった。


代わりに職場に現れたのはのど子ちゃんの母親(55歳・既婚)だった。驚いたことに、のど子ちゃんの母親はこれは見事な大阪のおばちゃんといったカラフルなまさにカメレオン柄の服を着てきたのだ。のど子ちゃんは持病が悪化したとかで田舎で療養する事になり、半年で職場を去ることになってしまった。


のど子ちゃんがその後どうなったのか僕は知らない。持病がよくなっているといいなと思う。そして誰かがうっかりカメレオンという単語を、のど子ちゃんの前で言わないことを願っている。